華麗な加齢に
加齢とともに筋肉が衰えていく──
これは単なる老化ではなく、体の内部で静かに積み重なる“質の崩れ”。
若い頃とほとんど体重が変わらなくても、ジュースの蓋が開けにくい、立ち上がるのが重い、何気ない所でつまずく・・・と言った変化が起こるのはそのため。
外見上の筋肉量よりも、内部で進行する「質」と「神経」のせいであり、それらは結局、動きのパフォーマンスに直結する・・・。
近年、注目されているのは、筋肉量がそれほど減っていなくても、筋力だけが急激に落ちる「ダイナペニア」という現象。
40〜80歳の間に筋肉量が10〜17%減るのに対し、筋力は35〜42%も低下するというデータがある。
つまり、見た目では分からない部分で、筋力低下の下地が早い段階から進んでいると言う事。
この現象は国際基準の改訂にも反映され、筋肉の“量”より“力”が重要視されるようになった。
では、身体内部では何が起きているのか?
それは、筋繊維そのものの形が変わって行く・・・。
若い筋繊維は均整の取れた多角形だが、加齢した筋繊維、とくに速筋は丸く歪み、へこみ、まるで力の入りにくい構造へと変形してしまう。
形が崩れるほど筋力は低下する。
さらに筋肉の中に脂肪が入り込む“霜降り化”が起こり、細胞同士の隙間に炎症を生む。
炎症が続くと筋繊維の修復細胞が過剰反応し、筋肉がコラーゲン化して硬くこわばっていく。
力が出ないのに硬さだけが残る、あの独特の質感はこうした細胞レベルの変化の結果。
筋肉が動くためのエネルギーを生み出すミトコンドリアにも問題が起こる。
新旧を入れ替える仕組みが加齢によって鈍くなり、使えなくなった“故障ミトコンドリア”が細胞内に残される。
これらはATPを十分に作れないうえに活性酸素をまき散らし、筋肉のタンパク質やDNAを傷つけてしまう。
エネルギー不足と炎症が同時に進行し、疲れやすさや回復力の低下が顕著になる。
筋肉を作る側の仕組みにも問題が出る。
テストステロンなどの筋成長を促すホルモンが減り、“アクセル”が踏まれなくなる。
一方、筋成長を抑制するホルモンは増え、“ブレーキ”が強く働く。
アクセルが弱まり、ブレーキが踏みっぱなしになった状態では、たとえ食べても動いても筋肉が反応しにくい。
これが中高年で顕著になる。
さらに深刻なのは、脳から筋肉へ送られる信号そのものが弱くなることだ。
運動神経の枝分かれが減り、伝達速度は低下する。
筋肉は残っていても“脳からの指令が弱いせいで力が出ない”。
握力の急激な低下や歩行速度の低下は、この神経系の衰えによるところが大きい。
加齢による腸の機能低下も筋肉の老化を加速させる。
腸のバリアが弱ることで内毒素が血中に漏れ、全身レベルの慢性炎症を引き起こす。
炎症は筋細胞にダメージを与え、分解を促進し、ミトコンドリア障害をさらに悪化させる。
筋肉の老化は、腸—炎症—筋のルートと深くつながっていることが分かってきた。
こうした変化はどれか一つが原因ではなく、複数が折り重なって“負の連鎖”をつくる。
筋繊維の変形
霜降り化
線維化
ミトコンドリア故障
ホルモン低下
神経出力の劣化
腸由来の慢性炎症
これらが互いに影響し、筋肉の機能を複合的に奪っていく。
からこそ、加齢による筋肉の衰えは「筋肉量の問題」ではなく、「質と代謝と神経の問題」として捉える必要がある。
しかし、この負の連鎖は止められる。
適切な刺激で神経の出力は回復し、ミトコンドリアは再活性化し、筋の質は改善する。
軽い負荷の反復
呼吸介入
粘弾性の調整
炎症コントロール
腸内環境の改善など
体に合わせた働きかけを積み重ねていくことで、筋肉は驚くほど応えてくれる。
歳だから仕方ない——そう思い込んでしまう前に、体の中で起きている変化に気づき、今できるケアを積み重ねることが、未来の動ける体をつくる第一歩になる。
