寝つきが悪い人へ

眼球をゆっくり左右へ転がすように動かしていると、不思議と眠気が満ちてくると言う。

この感覚には、単なるリラックス以上の理由があるとか。

 

眼球の水平運動は、脳幹の中枢や前庭系へ「ゆりかごの揺れ」とよく似た情報を届け、心身を睡眠方向へ移行させる働きを持っている。

とくに、傍正中橋網様体と呼ばれる脳幹部位は、レム睡眠と深く関わる領域で、眼球の左右運動によって緩やかに鎮まる。

これによって覚醒系が下がり、脳の「起きていなさい」という信号が自然に弱まっていく。

その結果、交感神経の緊張がほどけ、迷走神経が主導権を握りはじめ、呼吸や心拍は落ち着きを取り戻す。

 

さらに興味深いのは、眼球のリズムが脳波にも影響を及ぼす点。

単調で優しい周期運動は、大脳皮質の活動をゆるやかに抑制し、覚醒のβ波から、静けさを象徴するα波、そして入眠直前に現れるθ波へと自然に滑り込んでいく。

この変化は、身体が安全な環境にあると判断したときに生まれる“内側の潮流”。

人は安全を確信したとき、筋肉も呼吸も心拍も、すべてが「降りていく方向」へ向かう。

眼球の左右ゆらぎは、そのスイッチを静かに押してくれる。

 

ゆっくり15〜20秒ほど水平に動かし、少し止める。

これを数セット繰り返すだけで、身体の深部が緩みやすい方向へ傾く。

自分を落ち着かせたい時、有効な「内なる揺れ」の技法。

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