エンドルフィン

強い痛みやストレスにさらされると、後から「楽になる」事があります。

必死で耐え、山を越えた瞬間にどこか安心し、身体がふっと軽くなるような感覚。

そんな時に脳内に分泌されているのが、エンドルフィンです。

 

エンドルフィンは内因性オピオイドで、モルヒネ様物質とも言われています。

外から入れる薬ではなく、身体そのものが環境や状況に適応するために備えている仕組みです。

ここがとても重要で、人の身体は「耐えろ」ではなく、「乗り越えたあとに回復できるように」設計されています。

 

エンドルフィンの働きは、単に痛みを消すことではありません。

脊髄や脳で痛覚の伝達を抑える一方で、不安や恐怖といった感情にも作用し、安心感や多幸感を生み出します。

痛みそのものが消えるというより、「この痛みは危険ではない」と脳が再評価することで、体験の意味が変わっていきます。

つまりエンドルフィンは、痛みを無かったことにする物質ではなく、痛みを乗り越えられる体験へと変換する物質だと言えます。

 

エンドルフィンは、何もしていないリラックス状態で大量に分泌されるわけではありません。

ある程度の緊張や負荷、つまり交感神経が働いた後に分泌されるのが特徴です。

重要なのは「安全が確認されたあと」だという点です。

緊張があり、それが解除され、「もう大丈夫だ」と身体が判断した瞬間に、エンドルフィンは放出されます。

頑張ったあとに訪れる深い安堵感は、精神論ではなく、生理学的に裏付けられた反応です。

 

日常生活の中でも、エンドルフィンは特別な条件がなくても分泌されます。

少し息が上がる程度の運動を続けたあと

痛気持ちいいと感じる範囲の刺激を受けたとき

心から笑ったとき

何かをやり遂げたとき

信頼できる人と触れ合ったとき

これらに共通しているのは、負荷がありながらも安全であることです。

身体は危険な状況では回復せず、安心できる環境でのみ回復を許可します。

 

臨床現場においても、エンドルフィンは非常に重要な役割を果たします。

刺激が予測でき、無理を強いられず、いつでも逃げられるという感覚があると、身体は「これは危険ではない」と判断します。

その結果、回復に関わる物質が自ら分泌され始めます。

施術とは、力で身体を変える行為ではなく、身体が回復していいと判断できる環境を整える行為とも言えます。

 

ただし、ひとつ注意すべき点もあります。エンドルフィンが分泌されると、痛みを感じにくくなります。

そのため、楽だから良くなっていると錯覚しやすくなります。

エンドルフィンはあくまで身体を守る反応であり、構造や機能の問題そのものを直接治すものではありません。

気持ちよさと改善は必ずしも一致しない、この視点を持つことがとても大切です。

 

人の身体は、無理に耐え続けるようには作られていません。

適切な負荷を乗り越えたとき、「よくやった」と報酬を与える仕組みが備わっています。

エンドルフィンは、努力と回復をつなぐ身体からの承認です。

この仕組みを理解すると、痛みや不調に対する見方が、少し変わってくるかもしれません。

 

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